
捨てられるはずの皮を宝に変え、最後は土へと還す。株式会社FARMER YOUが提唱するのは、単なる再利用を超えた、一次産業の未来を紡ぐ「完全循環型」の哲学だ。都市と地方、異業種が交差する新たな挑戦が今、幕を開ける。
廃棄される夏みかんの皮が「一滴の美酒」に変わるまで
山口県萩市の名産として知られる夏みかん。その香る果実の裏側には、搾汁後に残る大量の「皮」という課題があった。持続可能な食の未来を掲げる株式会社FARMER YOUは、この残渣を余すことなく活用するプロジェクトを始動させた。
その象徴となるのが、2026年2月9日に発売されるクラフトラム「SPIN NATSUMIKAN 2025」である。注目すべきは、その重層的な素材の組み合わせだ。
ジュース搾汁後に残る夏みかんの皮を、ラムの香りづけとして贅沢に使用。さらに人気ショコラトリー「ダンデライオン・チョコレート」から提供されたカカオハスク(カカオ豆の外皮)をアップサイクルした。
本来なら廃棄される運命にあった素材たちが、沖縄の老舗・瑞穂酒造の手によって、奥行きのある芳醇なスピリッツへと昇華されたのだ。
東大発技術との共鳴。コースターが再び「肥料」になる物語
このプロジェクトの本質は、素材を徹底的に「使い切る」多層的な設計にある。ジュース搾汁後の残渣をラムの原料として活用し、それでもなお使い切れない皮の残渣を、東大発スタートアップ「fabula」の技術によってコースターや店内POPといった資材へと蘇らせる。
驚くべきは、その資材の「出口」だ。役割を終えた資材は再び回収され、萩の果樹園で肥料として土に還る。実りがジュースやラムになり、その残りが資材となり、最後は再び次の実りを育てる糧となる。産業と自然を一本の線で結び、文字通り円を描くように設計されたスキームは、サプライチェーンの理想形とも言えるだろう。
効率主義へのアンチテーゼ。「SPIN」に込められた糸を紡ぐ覚悟
「SPIN」という名には、酔いによる高揚感だけでなく、次世代へ「糸を紡ぐ」という意志が込められている。背景にあるのは、耕作放棄地寸前だった果樹園を救おうとする新規就農者への深い敬意だ。
「単に美味しい酒を造るのではない。一次産業が抱える痛みを、どう価値に転換できるか」
代表の田尾あゆみ氏をはじめとするチームの視線は、常に生産現場の泥臭い現実に向けられている。大量生産・大量消費の波に飲まれ、切り捨てられてきた端材に光を当てる行為は、効率を最優先する現代ビジネスへの、静かな、しかし力強いアンチテーゼである。
地方の課題を都市の価値へ。私たちが学ぶべき「接続の技術」
FARMER YOUの取り組みから学べるのは、一企業で完結しようとしない「共創の精神」だ。バーテンダーの感性、チョコレートメーカーの素材、老舗酒造の伝統、そしてスタートアップの先端技術。これらを一本の糸で繋ぎ合わせたコーディネート力こそが、停滞する地方創生の突破口となる。
「地域の問題」を「自分たちの価値」へと翻訳し、消費者が手に取りたくなる洗練されたプロダクトへ落とし込む。この鮮やかな手腕は、SDGsという言葉が形骸化しつつある今、本質的な持続可能性を模索するすべてのビジネスパーソンにとって、重要な指針となるはずだ。



