
東京都中央区日本橋馬喰町。ホビーやゲーム商材の流通を支える マッチングワールド株式会社 が本社を構えるこの一角では、近年、在庫データとEC相場を掛け合わせたユニークなビジネスモデルが注目を集めている。
同社を率いるのは、町田博(1949年生まれ)。46億円もの不良在庫を抱え、かつて自身の会社を倒産させた経験を持つ。その挫折を原点に、「在庫を持つことのリスク」を誰よりも知る経営者として、再び業界の最前線に戻ってきた。
在庫を“機会”に変える仕組み M-マッチングシステムの実力
マッチングワールドが提供する中核サービスが、仕入れ会員専用サイト 「M-マッチングシステム」 だ。ゲームやトレーディングカード、フィギュア、プラモデルなどのホビー領域を中心に、メーカー・問屋・小売店の在庫をつなぐ。
「勘や経験だけに頼らない仕組みで、公平で効率的な取引を実現したい」。町田はそう語る。取引の再現性が高まることで、誰が使っても同じ品質で仕入れ判断ができ、在庫リスクを抑制できる。
同社は仕組み重視の文化を貫く。「人ではなく仕組み」。この言葉は、長年、町田の胸に刻まれてきた信念でもある。
出発点は46億円の不良在庫 倒産が生んだ“仕組みへの執念”
町田の経営人生は、決して順風満帆ではなかった。鹿児島県で生まれ、NTT(旧日本電信電話公社)で社会人としての第一歩を踏み出したが、より商流の現場を知りたいと大阪の現金問屋に転じる。そこで培った経験をもとに、ゲーム流通の会社・光陽を創業した。
年商200億円規模へ急拡大したが、大型在庫の見誤りや市場変動が重なり、
わずか6年で46億円の不良在庫を抱えて倒産。
華やかだった成長期は影を潜め、負債とともに経営者としての人生さえ失いかけた。この経験が、後に“在庫リスクを減らし、持続可能な流通モデルを再構築する”という強烈な使命感へと変わる。
「営業力や勘だけに頼る経営は持続できない。再現性のある“仕組み”こそが会社を救う」。倒産後の浪人時代に確信した思いが、2001年の再起を決定づけた。
再起の決断 2001年マチダ(現マッチングワールド)を創業
2001年、町田は 株式会社マチダ(後のマッチングワールド) を設立。倒産の原因となった“在庫”そのものを価値に変える事業をゼロから構築した。
この時、町田の頭にあったのはただ一つ。
「在庫で泣く人を、もう増やしたくない」。
メーカーも小売も、余剰在庫に悩む構造は20年以上前から変わらない。仕入れ判断を誤ると在庫が積み上がり、資金繰りを悪化させる。町田は、この業界特有の構造課題を技術と仕組みで解消しようとした。
現在、従業員109名の組織に成長した同社のM-マッチングシステムは、在庫流通を安定化させる独自のインフラとしての存在感を高めている。
再現性と公平性をつくる経営哲学

町田が長年変わらず大切にしている価値観がある。
「仕組みを通じて公平性を担保する」
「社員が挑戦できる組織を整える」
倒産を経験したからこそ、営業力や個人依存の働き方は会社を弱くするという認識が強い。誰が入っても成果を出せる環境を整えることが、長期的な企業価値をつくると信じている。
「仕組みと組織。この2つが揃って初めて、会社は安定して成長できる」。町田の言葉には、苦い経験を核に据えた重みがある。
ペット用品への本格参入 次の成長領域を見据える
マッチングワールドは今後、ホビー商材に加えて新領域の拡大を進める。特に注力するのが ペット用品分野 の本格展開だ。ペット用品は生活必需性が高く、消耗品も多い。市場規模は年々伸びており、同社のM-マッチングシステムと相性が良い領域とみられる。
しかし、ペット市場は「目利き」が重要だ。メーカー機能も担うため、専門性の高い人材を迎え入れ、在庫の目利きと流通精度を高める体制構築を進める。
「ホビー以外でも、高い精度で在庫流通を実現する」。町田の視線は、すでに次の業界インフラ構築へ向いている。
余剰在庫はリスクではなく“可能性” 企業にも個人にも開かれた流通の未来へ
町田が繰り返し語るのは、在庫に対する新しい価値観だ。
「余剰在庫は、ただの負債ではない。見方を変えれば、その企業に眠る“可能性”そのものになる」。
同社は個人事業主や副業者に向けた仕入れ支援も展開し、在庫流通の民主化を進める。市場に眠る在庫を機会に変えることで、新しい挑戦者を生み出せる。その思想は、町田自身が“失敗から立ち上がった挑戦者”であることに由来するのだろう。
町田は最後にこう語る。
「在庫に困ったら、“まずマッチングワールドに相談しよう”と思っていただける存在になりたい。流通のインフラとして、業界全体の成長を支えていきたい」。
倒産という極限の経験から生まれた企業は、いま、在庫流通の未来をつくる存在へと変わりつつある。




