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なぜKDDIは見抜けなかったのか?子会社ビッグローブらによる330億円外部流出と巨額粉飾の全容

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ビッグローブ スクショ
BIGLOBEより

KDDIは2月6日、子会社ビッグローブ等による累計2460億円の架空取引が発覚したと発表した。330億円が外部流出し、決算発表も延期される異例の事態だ。通信大手の監視網を潜り抜け、長年続けられた巧妙な「還流スキーム」の正体と、その全容を解説する。

 

通信大手を揺るがす「2460億円」の衝撃

2026年2月6日、日本の通信インフラの一翼を担うKDDI株式会社が、前代未聞の不祥事を公表した。同社の連結子会社である「ビッグローブ株式会社(以下、ビッグローブ)」および、その子会社である「ジー・プラン株式会社(以下、ジー・プラン)」において、長期間にわたる大規模な架空取引が行われていたというものだ。

現時点で判明している影響額は、売上高の過大計上で累計約2,460億円。営業利益ベースでは約500億円の取り消しが必要となる見通しだ。さらに深刻なのは、取引の過程で「手数料」等の名目により、約330億円もの資金が外部へ流出した可能性がある点である。

KDDIは同日に予定していた2026年3月期第3四半期の決算発表を急きょ延期した。一企業の不祥事の枠を超え、グループ全体のガバナンスが問われる深刻な事態へと発展している。

事件の舞台となった「ビッグローブ」と「ジー・プラン」

 

今回の不正が起きたのは、KDDIグループの中でも非通信領域、特に「広告代理事業」を担当していた部署だ。

ビッグローブは、1996年にNECの事業として開始された老舗プロバイダーであり、2017年にKDDIグループ入りした。一方のジー・プランは、ビッグローブの子会社として、ネット広告やポイント交換サービスを手掛けていた企業だ。

不正のスキームには、ジー・プランの社員2名が深く関与していた。この2名はビッグローブにも出向・兼務しており、両社の広告代理事業を実質的に切り盛りする立場にあった。彼らが中心となり、実態のない広告取引をあたかも実在するかのように装うことで、巨額の数字を積み上げていたのである。

巧妙な「還流スキーム」――実体のない330億円のループ

なぜ、これほどまでの巨額な取引が「架空」だと見抜けなかったのか。
その理由は、取引の形そのものは「正常なビジネス」を完璧に模倣していたからだ。

今回発覚した手口は、「循環型の架空取引(還流するスキーム)」だ。

広告主が存在しないにもかかわらず、複数の代理店を介して資金と請求書が回る「還流するスキーム」の概念図(2026年3月期 3Q業績説明会資料より)

1. 存在しない広告主と広告案件

本来、広告ビジネスは「商品を宣伝したい広告主」がいて成立する。しかし今回のケースでは、広告主そのものが実在しなかった。にもかかわらず、複数の広告代理店が関与し、あたかも「大規模な広告キャンペーン」が動いているかのような外形が作られていた。

2. 資金の循環構造

スキームの流れは以下の通りだ。

  1. 上流の広告代理店が、架空の広告案件をジー・プラン(またはビッグローブ)に発注する。
  2. ジー・プランは、さらにその案件を下流の掲載代理店に再委託する。
  3. 驚くべきことに、その再委託先が、最初の「上流の広告代理店」と同一、あるいは密接に関係する企業であった。

つまり、お金は「A社→ジー・プラン→ビッグローブ→B社→A社」といった形で、グループ内外を円状にぐるぐる回っていただけだったのである。

3. 「手数料」という名の流出

この「ループ」が一回転するごとに、関与した各社は「手数料」を差し引く。この各社に落ちた手数料の合計、および不当に支払われた資金の総計が、外部流出したとされる「約330億円」の内訳である。KDDIによれば、この流出先は大手広告代理店ではなく、特定の複数の中堅・中小代理店であった。

なぜKDDIの監視網は潜り抜けられたのか

 

KDDIは東証プライム上場の巨大企業であり、厳格な内部統制を敷いているはずだ。それにもかかわらず、約9年もの間(ジー・プランは2017年度から、ビッグローブは2022年度から)不正が継続した理由は、主に3つの「死角」があった。

① 完璧に揃えられた「証拠書類」

松田社長は会見で、「請求書や契約書などの書面がすべて揃っており、資金の決済(実際の振り込み)も滞りなく行われていた」と述べた。形式上は非の打ちどころがない取引だったため、帳簿を確認するだけの監査では異常を検知できなかった。

② 事業の「独立性」と専門性

広告代理事業は、通信事業とはビジネスモデルが大きく異なる。KDDI本体から見れば、子会社が「新規事業」として伸ばしている領域であり、現場の専門性に依存する部分が大きかった。ビッグローブからの「取引は妥当である」という報告を、本体側が過度に信頼してしまった側面がある。

③ 「身内」による二重チェックの無効化

不正を主導したとされる2名の社員は、発注側(ジー・プラン)と受注側(ビッグローブ)を兼務・出向していた。これにより、会社をまたいだチェック機能が働かず、一人の裁量で架空の数字を作り上げることが可能な環境になっていた。

発覚のきっかけは「12月の入金遅延」

 

この「無敵」に見えたスキームが崩壊したのは、2025年12月のことだった。

皮肉なことに、きっかけはKDDI本体による「適切な管理」への一歩だった。取引額があまりに膨れ上がったことを危惧したKDDIが、子会社に対し「取引規模を抑制するように」と指示を出したのである。

還流スキームは、常に「新しい資金」を投入し続けなければ維持できない。KDDIが蛇口を締めたことで資金繰りが行き詰まり、上流の代理店からの入金が滞った。これを受けてKDDIが社内調査を開始したところ、山積みの架空取引が明るみに出た。

巨額の業績修正――2460億円の売上を取り消しへ

KDDIが公表した資料に基づき、具体的な数字を整理する。
今回の不正による修正額は、一般的な企業の年商をはるかに上回る規模だ。

  • 売上高への影響(累計約2,460億円のマイナス)
    • 2024年3月期以前:約960億円
    • 2025年3月期:約820億円
    • 2026年3月期:約680億円
  • 利益への影響
    • 営業利益(過大計上分の取消):累計約500億円
    • 外部流出に伴う損失(引当):約330億円
現時点で認識されている業績影響額。今後の調査でさらに変動する可能性がある(2026年3月期 3Q業績説明会資料より)

特に衝撃的なのは、外部へ流出した330億円だ。KDDIは、この資金の原資の一部に、本来は通信設備の整備などに使われるべき「グループファイナンス(親会社からの貸付金)」が充てられていた可能性を認めている。つまり、通信インフラを支えるべき大切な資金が、実態のない広告のループの中で消えていったことになる。

今後の焦点――特別調査委員会の設置と責任追及

 

KDDIは現在、元最高検検事や公認会計士など、外部の専門家で構成される「特別調査委員会」を設置し、全容解明を急いでいる。

今後の注目点は以下の3点だ。

  1. 「共犯者」の特定
    関与した社員2名以外に、組織的な関与がなかったか。また、還流するスキームに協力した外部の広告代理店に対し、どのような法的措置(損害賠償請求など)を取るのか。
  2. ガバナンスの再構築
    「書類が揃っていればOK」という現在の審査体制をどう変えるのか。松田社長は「現場のプロセスを磨き上げる」としているが、実効性が問われる。
  3. 過年度決算の修正
    過去数年間にわたる決算を修正する必要があり、有価証券報告書の訂正などが3月末までに行われる予定だ。

松田社長は会見で、「KDDIフィロソフィを改めて徹底し、未然に防ぐプロセスを磨き上げる」と決意を語った。

一般消費者への影響は?

 

私たち一般消費者にとって、最も気になるのは「ビッグローブのインターネットが使えなくなるのか?」「KDDIの通信料金が上がるのか?」という点だろう。

この点について、KDDIは明確に「通信サービスの提供には一切影響がない」と説明している。ビッグローブの接続サービス、auやUQ mobileなどのモバイルサービスは、今回の不正とは切り離された基幹事業であり、今後も通常通り利用できる。

しかし、通信業界のリーダーであるKDDIがこれほどの巨額粉飾を見抜けなかった事実は重い。330億円という巨額の損失は、最終的には企業の体力、ひいてはサービス開発への投資余力にも影響を及ぼしかねないからだ。

「つなぐチカラ」を掲げるKDDIが、再び信頼を「つなぎ直す」ことができるのか。3月末に予定されている調査報告書の公表と決算発表が、その試金石となるだろう。

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ライター:

新聞社で記者としてのキャリアをスタートし、政治、経済、社会問題を中心に取材・執筆を担当。その後、フリーランスとして独立し、政治、経済、社会に加え、トレンドやカルチャーなど多岐にわたるテーマで記事を執筆

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