
公共図書館で紙の書籍をめぐる環境が大きく変わり始めている。資料費削減が続き、新刊の購入は縮小し、書庫の圧迫によって貴重な蔵書が失われる懸念が強まる。一方で電子書籍の利用は増えつつあり、図書館は紙と電子の共存という新たな課題に直面している。だが、紙の本の価値は依然として高く、修復や復刊、地域資料の保存といった取り組みは各地で続く。図書館の役割を再定義し、未来へ知を引き継ぐための道を探った。
図書館の未来をどう守るか 紙の書籍の価値と再生に向けた動き
公共図書館を取り巻く状況が揺らいでいる。資料費削減が進むなか、紙の書籍の購入が控えられ、書庫の圧迫によって貴重な蔵書が姿を消す懸念が指摘され始めた。NHKが報じた「ラストワン本」の危機は、その象徴的場面の一つに過ぎない。しかし一方で、紙の書籍を守り、再び増やそうとする取り組みは各地に広がっている。図書館の本質的役割と紙の本の価値を見つめ直す時期に来ている。
図書館の役割は“情報の蓄積と継承”
図書館は単なる書籍提供の施設ではなく、地域で育まれた知識と記録を未来へ引き継ぐための公共的拠点である。電子化が進む現在でも、紙でしか読めない資料、形のある媒体として長期保存に向く資料は多い。
デジタルデータは形式変化や契約条件に左右されるが、紙の本は適切な保存環境が整えば百年以上にわたり利用可能な場合もある。地域資料や専門書、小部数出版物を守るうえで、紙の存在は不可欠だ。
紙と電子を対立させるのではなく、互いの強みを補完しながら維持する視点が求められている。
紙の本の減少がもたらす影響
資料費の縮小は、次のような変化を多くの図書館で生んでいる。
- 新刊書の導入数の減少
- 雑誌や新聞の購読中止
- 書庫スペース不足による除籍の増加
- 地域に少数しか残らない資料が失われるリスクの上昇
これらは、利用者の知識アクセスを制限し、長期的には読書文化そのものを弱めかねない。
利用者が感じる“紙の価値”と図書館への期待
利用者の声には、紙の本が担う役割への根強い支持がある。
- 子どもに紙の絵本を触らせたい
- 専門書・歴史資料は紙の方が理解しやすい
- デジタルが苦手な層にとって紙は不可欠
- 本棚から選ぶ体験が文化として残ってほしい
図書館は、世代や地域を問わず知へのアクセスを保障する場である。その基盤が揺らげば、住む場所によって“読める本”が変わる情報格差が広がる。
紙の本を守るための取り組みが各地で動き始めた
紙の本を未来へと残すため、図書館や市民、大学、出版社の間で複数の取り組みが進んでいる。
市民協働の「地域資料レスキュー」
廃棄予定資料の中から歴史的・地域的価値の高い本を市民と司書が共同で選び直す活動が行われている。電子化されにくい郷土資料や地方出版物を守るための試みだ。
公共図書館と大学図書館の連携
公共図書館と大学図書館が協力し、専門性の高い資料の保存を分担する取り組みが各地で始まっている。書庫不足を補いながら、地域の知識資源を切れ目なく維持する狙いがある。
絶版本の復刊支援プロジェクト
出版社・図書館・市民が協働し、長年入手困難だった書籍を少部数で復刊する例も見られる。郷土史、専門書、教育現場で使われる図鑑など、電子では代替しづらいジャンルで成果が出ている。
蔵書の復元・修復作業
傷んだ蔵書を修理し、再び利用できる状態に戻す「ブックリペア」も広がっている。破れたページの補修、装丁の固定、背表紙の補強など専門的な作業が行われ、寿命を延ばすことにつながる。市民参加の修復講座を設ける図書館もあり、本を守る意識を地域で共有する取り組みとして注目されている。
紙の本を未来へつなぐために
電子書籍が普及する今こそ、紙の書籍が持つ文化的・記録的価値は再評価されている。図書館が担うべき役割は、紙と電子のどちらかを選ぶことではなく、多様な利用者が必要な形で知にアクセスできる環境を提供することにある。
保存・修復・復刊・共同保存といった取り組みを社会全体で支えられるかどうかが、これからの読書文化の行方を左右する。図書館の棚に並ぶ一冊一冊は、人々が築いてきた記録であり、未来への贈り物である。その価値をどう受け継ぐかが問われている。
11月18日記事を一部修正



