
朝の光はやわらかいのに、遠くの景色がにじむ。ベランダの手すりを指でなぞると、うっすらと粉が残る。春の訪れを告げるはずの黄砂が、今年は1月から観測されている。なぜ2026年はこれほど早く、そして多いのか。その背景には、偏西風の蛇行と暖冬という気圧配置の異変があった。
早すぎる黄砂 1月観測の意味
黄砂は例年、3月から増え始め4月にピークを迎える。しかし今年は冬のさなかに観測された。これは単なる偶然ではない。
通常、冬の大陸は強い高気圧に覆われ、空気は安定する。冷え込みは厳しくても、砂じんが広範囲に舞い上がる条件は整いにくい。ところが今冬は低気圧が相次いで発生し、南寄りの強風が頻発した。乾いた地表がむき出しになった地域では、砂が巻き上がりやすい状況が続いたのである。
「春が早い」のではなく、「冬が崩れている」。それが今年の特徴だ。
鍵を握る偏西風の蛇行
上空の偏西風は、本来は比較的まっすぐ西から東へ流れる。しかし近年、その蛇行が大きくなっていると指摘されている。
寒気と暖気が複雑に入り混じり、気圧の谷が深くなる。すると低気圧が発達しやすくなり、強風が生まれる。その風が大陸の砂じんを高く舞い上げ、日本列島へと運ぶ。
今年はその蛇行が顕著だった。結果として、発生源での巻き上げと、輸送の両条件が同時にそろった。黄砂が多い年には、必ず「強い風」と「乾燥」がある。今年はそこに「タイミングの早さ」が加わった。
黄砂×PM2.5×花粉 春の重なり
今年は花粉の飛散も早い。暖かさと強風が、スギ花粉を本格化させている。
さらに懸念されるのがPM2.5との同時飛来だ。名古屋大学の研究では、PM2.5に含まれる金属成分がスギ花粉症の悪化と関係する可能性が示されている。黄砂は移動中に大気中の物質を吸着することもあり、単なる砂粒とは言い切れない。
喉の違和感、目のかゆみ、原因のはっきりしない咳。今年は複数の要因が重なり合う“春の三重苦”の様相を呈している。
もっとも、すべてが直ちに健康被害へ結びつくわけではない。症状の感じ方には個人差がある。ただし、風の強い日ほど濃度が上がりやすいのは事実だ。外出時のマスク着用や帰宅後の洗顔、洗濯物の室内干しなど、基本的な対策は有効とされる。
これは一過性か、それとも兆候か
問題は、この現象が単年の異変なのかという点だ。
偏西風の蛇行は気候変動との関連も議論されている。ただし、単年の事象だけで長期傾向を断定することはできない。それでも今年の早い黄砂は、「空の上で何かが変わりつつある」ことを示唆している。
青空は変わらず広がっている。それでも、わずかなかすみが私たちの呼吸と直結している。遠い砂漠で巻き上がった粒子が、数千キロを越えて届く。その事実は、風が国境を持たないことを改めて思い出させる。
今年の春は、少しだけ空を見上げる時間が増えるかもしれない。風向きを確かめながら、体調の変化にも耳を澄ませる季節になる。



