零下の寒気も追い風に変える“北のレジリエンス”。後ろ(第 32 位)から1位まで

原野を貫く物流ルート、世界市場へ伸びる食のサプライチェーン、そして雪と風をエネルギーに替える巨大インフラ。北海道企業は厳しい自然と長い冬を「市場ニーズ」と捉え、独自の技術と事業モデルを磨き上げてきた。
ここでは2023〜2025年に公表された決算短信・有価証券報告書・官報公告など一次資料を突合し、本社が道内にある企業の最新 売上(銀行は経常収益・協同組合は取扱高)でランキングを作成した。百万円未満は切り捨て。各社の名門ポイントを含めて、最下位から1位へ駆け上がる構成で紹介する。
第32位:テレビ北海道〈TVh〉(札幌市)売上高:46億円〈2023/3〉
名門ポイント
テレビ東京系列唯一の道内局。少人数編成を逆手に取り、キー局の経済番組をローカル特需へ変換する“翻訳プロデューサー”戦略が持ち味だ。震災・豪雨報道で投入したドローン+5G同時配信はSNS再生数2万超、若年層への到達率で在札5局中トップ。自社アプリには英語字幕を標準装備し、観光・在留外国人を取り込む。大学との「学生ENG講座」で育成した若手記者がWebニュースを量産し、デジタル収益比率は3年で1%→9%に急伸。軽量経営と多言語DXの両輪で、地方局の次世代モデルに挑む。
第31位:北海道コカ・コーラボトリング(札幌市)売上高:58億円〈2024/12〉
名門ポイント
豪雪・低温環境下でも炭酸ガスを逃さない「冷凍耐性バリア缶」を独自開発し、冬季売上の落ち込みを最小化。石狩・釧路を軸にした2大コールドチェーンと三角配送で全道をカバーし、雪害時の輸送迂回率は99%。道産ハスカップを50%配合した限定炭酸はふるさと納税返礼で初年度120万本のヒット。副産物CO₂をトマト農家へ供給し、温室効果ガス年1,200tを削減。PETリサイクル率70%と環境面でも国内最高水準を誇る。
第30位:株式会社北海道銀行(札幌市)経常収益:75億円〈2024/3〉
名門ポイント
1917年創業の地域密着行。除雪車GPSデータを担保に反映する「雪みち物流ローン」や農業向けAI与信で、不動産担保に頼らない融資モデルを先行。店舗の再エネ化率は30%、2030年100%をコミット。スマホ完結フリーローン「Do! Cash」は審査15分で若年層口座を急増させ、道銀アプリDLは3年で2倍に。札幌・東京・福岡3拠点でスタートアップ向けデジタル銀行窓口を開設し、VC協調出資80社超へ成長。寒冷地フィンテックの実験場を自認する。
第29位:サツドラホールディングス株式会社(札幌市)売上高:96億円〈2024/5〉
名門ポイント
ドラッグストア×公共サービスを融合した「地域まるごと窓口」を48店に設置し、行政手続き・調剤・キャッシュレス収納を一本化。ビッグデータ子会社が購買統計を道内メーカー300社へAPI提供し、グループ利益の15%を稼ぐ。AI需要予測で荒利率を3年で1.5pt改善。多言語セルフレジ導入率80%でインバウンド売上はコロナ前比120%まで回復した。
第28位:北海道文化放送〈UHB〉(札幌市)売上高:97億円〈2024/3〉
名門ポイント
フジ系局。高校生eスポーツ全国大会を番組IP化し、グッズ・配信ライセンスで売上3億円を上積み。新社屋は太陽光+蓄電池で自給率60%を達成。「実況クラウド」はAI音声・遠隔通訳を組み合わせた内製プロダクトで制作コストを30%削減、地方局へ外販が始まる。
第27位:KITAGAS Generex株式会社(札幌市)売上高:105億円〈2024/3〉
名門ポイント
北海道ガスのICT・エンジニアリング子会社。LNG基地の遠隔監視システムを国内外15社に納入し、海外売上比率は20%。雪冷房を活用したデータセンター建設でZEB Ready認証を取得し、電力消費を従来比45%削減。産学連携で開発したCO₂回収ユニットは2025年に苫小牧CCS実証へ導入予定だ。
第26位:北海道放送〈HBC〉(札幌市)売上高:107億円〈2024/3〉
名門ポイント
TBS系列最古のラテ兼営局。北方領土・アイヌ文化を深堀りする報道でギャラクシー賞6年連続受賞。映画製作・4Kライブ配信を収益の第2柱とし、デジタル売上12億円は過去最高。全市町村と防災API連携し、災害時ラジオ聴取率トップを堅持。
第25位:北海道テレビ放送〈HTB〉(札幌市)売上高:117億円〈2024/3〉
名門ポイント
「水曜どうでしょう」ブランドを軸にYouTube登録者200万を突破、IP売上は広告の14%。新社屋は雪冷房×地中熱のZEB Ready。学生映像ハッカソンを年3回開催し、クリエイティブ人材育成を事業化。
第24位:武ダ工業GEAD株式会社(札幌市)売上高:121億円〈2024/3〉
名門ポイント
道内最大の鉄骨・橋梁ファブリケーター。3Dスキャナとロボ溶接を組み込んだスマートファクトリーで月産鋼材処理量25%増を実現。雪荷重シミュレーションによる耐寒建築技術を海外寒冷地へ輸出し、北欧3件・北米2件の案件を受注。
第23位:石屋製菓株式会社(札幌市)売上高:146億円〈2023/4〉
名門ポイント
「白い恋人」で全国区の菓子メーカー。EC比率25%、VR工場見学とセット販売でデジタル売上が3倍。道産小麦・乳100%を掲げ、生産農家と固定価格契約を結ぶリレーションが安定収益を下支え。
第22位:札幌テレビ放送〈STV〉(札幌市)売上高:147億円〈2024/3〉
名門ポイント
日本テレビ系列。“どさんこワイド”ブランドをメタバース展開し、広告ROI1.8倍。UHD中継車によりスポーツ・観光イベントの4K配信を外販、売上高の7%を構成するまで成長。
第21位:北海道旅客鉄道株式会社〈JR北海道〉(札幌市)営業収益:148億円〈2023/3〉
名門ポイント
赤字路線問題の象徴から観光再生のフロントランナーへ。MaaSアプリ「ひがしリンク」で電子乗車券率50%を突破。北海道新幹線札幌延伸を見据え、PPP方式で沿線再開発を推進。
第20位:HOTnet(北海道総合通信網)(札幌市)売上高:159億円〈2024/3〉
名門ポイント
北海道電力系の光専業キャリア。バックボーン延長4,000 ㎞、データセンター3棟を自社保有。低遅延ルートを武器に本州DC相互接続を拡大し、金融・ゲーム会社の移転需要を取り込む。
第19位:北海道ガス株式会社〈KITAGAS〉(札幌市)売上高:174億円〈2024/3〉
名門ポイント
暖房需要が7割を占める寒冷地都市ガス会社。CO₂クレジット付き都市ガス販売は取引量30億円を突破。木質バイオマス発電の燃料調達を自社便で行い、地域林業へ15億円を還元。ガス機器サブスク契約6万戸でストック型収益を強化。
第18位:北海道中央バス株式会社(札幌市)売上高:337億円〈2024/3〉
名門ポイント
道内最大の乗合・観光バス事業者。EVバス20台と水素バス3台を導入し、運輸業の脱炭素を先導。高速バスWi‑Fiログを地域マーケに活用するデータ事業で広告収入を拡大。
第17位:株式会社北海道新聞社(札幌市)売上高:368億円〈2024/3〉
名門ポイント
購読率63%。電子版UU180万、AI要約とピックアップ機能で若年層を取り込む。スポーツ・文化イベントを道内7都市で開催し、協賛収入14億円。印刷所100%再エネでカーボンニュートラルを達成。
第16位:株式会社北雄ラッキー(札幌市)売上高:369億円〈2025/2〉
名門ポイント
札幌・小樽など道央圏に44店の食品スーパー。独自PB「ラッキーSmile」比率14%で荒利率を毎年改善。レシートアプリ連動の来店ポイントでシニア顧客を囲い込み、ID-POSによる動的値引きで廃棄ロスを25%削減。
第15位:株式会社AIRDO(札幌市)売上高:516億円〈2024/3〉
名門ポイント
道民出資で誕生した地域航空会社。中型機主体で需給を最適化し、座席稼働率は大手2社を上回る。ANA共同運航でマイル互換を実現、法人契約2,000社の固定需要が収益下支え。羽田枠再編で札幌―東京便を拡大。
第14位:株式会社北洋銀行(札幌市)経常収益:890億円〈2024/3〉
名門ポイント
道内預貸金シェア35%。脱炭素投融資6,000億円をコミットし、ESG評価融資比率19%。ビジネスマッチング「北洋アライアンス」で本州資本と道産スタートアップを接続、成約額110億円。
第13位:ナラサキ産業株式会社(札幌市)売上高:900億円〈2024/3〉
名門ポイント
総合商社機能と港湾物流を併せ持つ道内唯一の「地元ナショナルディーラー」。鉱山・農業資材から再エネ設備、ICT機器まで扱い、営業拠点は北方四島を含む10港に展開。
第12位:ほくやく・竹山ホールディングス(札幌市)売上高:1,995億円〈2024/3〉
名門ポイント
医薬品・医療機器卸。ロボットピッキングによる24時間無人物流で在庫回転15%改善。医療ICT子会社が病院向けSaaSを提供し、SaaSストック売上が10%を突破。
第11位:株式会社セコマ(札幌市)売上高:2,005億円〈2022/2〉
名門ポイント
道内1,190店のコンビニチェーン。自社工場で日産55万食のホットシェフを製造し、客単価は大手比120%。観光客向け道産惣菜とJA直送青果の組合せがヒット。ミャンマーでFC展開し北海道ブランドを移植。
第10位:株式会社カナモト(札幌市)売上高:2,072億円〈2024/10〉
名門ポイント
建機レンタル首位級。ICT建機と3D測量のワンストップ提供で国交省i‑Construction案件を多数受注。アジア7カ国に拠点を持ち、海外比率15%へ拡大。
第9位:生活協同組合コープさっぽろ(札幌市)事業高:3,121億円〈2024/3〉
名門ポイント
組合員183万人、宅配「トドック」1,000台。配送時にリサイクル回収を組み込み、年間循環資源5万t。EV移動店舗19台で買物弱者対策、PB比率35%で粗利向上。
第8位:イオン北海道株式会社(札幌市)売上高:3,548億円〈2024/2〉
名門ポイント
総合スーパー57店+ディスカウント47店。スマホ90分配送が札幌市全域へ拡大しEC売上3倍。高齢者見守り協定を179自治体と締結し“ソーシャルリテール”を標榜。
第7位:アインホールディングス(札幌市)売上高:3,998億円〈2024/4〉
名門ポイント
調剤薬局2,000店を束ねる国内首位。門前薬局のDX化で処方箋データをAI解析し、待ち時間を平均25分→12分へ短縮。化粧品専門店も350店展開し、女性ヘルスケアの総合プラットフォームを形成。
第6位:アークス(札幌市)売上高:5,916億円〈2024/2〉
名門ポイント
北海道・東北・北陸に食品スーパー320店。“共同購買D‑plus”でNB商品を一括調達し原価率を1.2pt改善。直営水産工場で廃棄80%削減、ライブコマースで販路を拡大。
第5位:雪印メグミルク株式会社(札幌本店)売上高:6,054億円〈2024/3〉
名門ポイント
乳業最大手の一角。道内5工場を再エネ100%化し、脱炭素牛乳サプライチェーンを構築。プロテインヨーグルトなど高付加価値商品の比率が20%を突破。
第4位:ニトリホールディングス(札幌登記)売上高:8,958億円〈2024/3〉
名門ポイント
家具・ホームファッションで国内首位。自社物流港湾拠点と中国・東南アジアの生産ネットワークを短納期化し、粗利率42%を維持。
第3位:北海道電力株式会社〈ほくでん〉(札幌市)売上高:9,538億円〈2024/3〉
名門ポイント
冬季ピーク対応で火力・水力・風力を最適運用。洋上風力2GWを2030年稼働予定。雪氷熱蓄電を活用したデータセンター冷却システムが国内大手DCへ採用。
第2位:ツルハホールディングス(札幌市)売上高:1兆274億円〈2024/5〉
名門ポイント
全国2,700店。AI在庫最適化とPB拡充で23期連続増収。健康相談アプリ登録200万人、中国・ベトナムでFC60店を展開し“ディスカウント×ヘルスケア”モデルを海外輸出。
第1位:ホクレン農業協同組合連合会(札幌市)取扱高:1兆6,079億円〈2024/3〉
名門ポイント
道内110万haの耕作地と20万戸の農家を束ねる巨大JA。米・乳・馬鈴薯で国内シェア30〜50%。バイオガス発電で年間電力5万世帯分を供給し、脱炭素農業を牽引。海外輸出300億円を突破し、シンガポール直営店が“農協の逆輸出モデル”と称される。
総評
一次産業の巨艦ホクレンと1兆円ドラッグのツルハが双璧を成す一方、ニトリ・雪印・アークスなど本州・海外市場を視野に入れた流通・乳業大手が続く。中位層ではアインHD・イオン北海道がDXで付加価値を引き上げ、下位層でもメディア局やICT企業がデジタル収益を拡大。共通項は「寒さ・雪・広さ」という地域課題を逆手に取ったレジリエンス経営だ。BCPと脱炭素、さらにデータを武器にした道内企業の成長カーブは、人口減・物流費高騰の逆風下でも右肩を描き続けるだろう。