
徳島県議会は12月5日、前夜に提出されていた古川広志元県議(64)の辞職願を全会一致で可決した。派遣型風俗店の女性を隠し撮りしたとして警視庁赤坂署に逮捕された人物が、まさか“政治倫理”を掲げてきた公明党の県議団長だったという事実に、県政関係者の間では苦笑とため息が交錯している。
公明党は即日除名という最速級の“処理”を下したが、本人が落とした信用の破片は、いまも赤坂のビジネスホテルに散乱したままだ。
隠し撮りの“技術力”で徳島県政を震撼させる
事件が発覚したのは11月29日。古川元県議は前夜、赤坂のビジネスホテルに宿泊し、派遣型性風俗店の20代女性を呼び寄せた。その後の展開は、フライデーの取材が詳細に伝えている。
サービスの最中に「動画の静止ボタンを押すような音」が室内に響き、女性が不審に思い確認したところ、ベッド付近に置かれたスマートフォンがまさに“稼働中”だったという。
風俗嬢の警戒心を甘く見たのか、あるいは操作音を消す設定すら知らなかったのか、そこは議員3期を務めた人物の“情報リテラシー”に委ねるほかない。女性は即座に店へ連絡し、店側が警察へ通報。古川元県議は「撮影したことに間違いありません」と認め、スマホからは別女性の動画まで見つかった。本人は「過去に数回やった」と供述しており、議会で培った“経験値”がどこに向けられていたのかは想像の余地がある。
党本部が緊急火消し 「模範となるべき政治倫理」に泥を塗る
古川元県議は公明党徳島県本部代表であり、県議団長も務めていた。地方議員としては重い肩書だが、逮捕当日、公明党本部・西田実仁幹事長が即座に談話を発表した。他党なら地方議員の不祥事で幹事長が動くなど異例だが、今回ばかりは“火の手の速さ”が違った。
談話では「極めて非倫理的で人権を侵害する重大な犯罪容疑」「党の名誉を著しく損なう行為」と断じた。本人が赤坂で撮影していた対象は党の名誉ではなかったが、最も深く傷ついたのはその名誉だったという皮肉な構図である。
結果、12月1日付で除名処分。議員バッジも党籍も、撮影ボタンを消すより早く剥ぎ取られた。
“釈放=無罪”という誤解 法曹の視点は冷静
同日、「勾留請求却下による釈放」も明らかになった。ネットでは「釈放なら無罪?」との素朴な声も出たが、アトム法律事務所の松井浩一郎弁護士はそれを明確に否定する。
「勾留の必要性がないと司法が判断しただけで、在宅で捜査が続く。示談が成立すれば不起訴、成立しなければ罰金刑で終わるケースが多い」
つまり、釈放は単に“拘置所への移動がキャンセルされた”程度の意味にすぎず、潔白の証明ではない。政治家としての経歴の中で最も注目された“解放”がこれというのも、なんとも皮肉だ。
「風俗嬢を目の前にしての盗撮は罪か」議論に潜むズレ
事件後、ネット上では妙な理屈が飛び交った。「風俗嬢が裸なのに盗撮になるのか」「デリヘルは撮影オプションがある店もある」といった声である。
だが、ここにあるのは“サービス”と“権利”の混同だ。
松井弁護士は次のように明確に説明する。
「性的姿態等撮影罪は、相手が恋人でも配偶者でも、同意なく性的な部位を撮影すれば成立する。裸が見えているかどうかは関係ない」
つまり今回、論点にすらならない議論が多くの場で展開されたわけだ。政治倫理規範どころか、一般社会の基礎的理解すら誤読されていたのは、何も元県議だけではなかったのかもしれない。
徳島が失ったものと、元県議が落としたもの
3期務めた県議の辞職は本来なら地域政治の損失だ。だが今回の損失は、政治的影響よりも“恥の露出”という形で全国に配信された。
徳島が全国ニュースになるとき、農業政策や防災対策ではなく、赤坂のビジネスホテルが舞台になるという事態を誰が想像しただろう。
本人が積み上げた3期の実績より、操作音ひとつで露見した下劣な行為の方が圧倒的に強く記憶される。これほどコストパフォーマンスの悪い政治人生の幕引きも珍しい。
古川元県議は除名と辞職により、いまや“在宅捜査中の元政治家”へと急降下した。たとえ不起訴となろうとも、社会的信用の墓標はすでに建てられたも同然だ。
彼が本当に失ったのは地位でも収入でもない。
倫理観、信頼、そして「撮影ボタンに触れる前に守るべき最低限の人間性」である。



