
粉飾疑惑が表面化した4月28日の東京市場で、オルツ株(260A)は寄り付きから売りが殺到し、終値は前日終値417円から80円安の337円、下落率19.18%でストップ安に張り付いた。市場は第三者委員会の調査結果を待てずにリスク回避へ傾いた格好だ。
田端氏が公開した内部資料「販売店フロー」の核心
28日、田端信太郎氏のYouTube動画で示された〈販売店フロー〉によると、オルツは広告宣伝費1.2億円をADKに発注。ADKは1,000万円を差し引いた1.1億円を販売店の株式会社ジークス(ZYX INTERNATIONAL Inc.)へ流し、ジークスはさらに1,000万円を控除して残金1億円でオルツのSaaS「AI GIJIROKU」をバルク購入する。
広告費がそのまま売上に転化する三角循環取引で、田端氏は「典型的な粉飾のスキーム」と批判し、詳細は動画で確認するよう呼びかけている。
異常な広告費と販売店売上が示す粉飾の兆候
オルツの開示資料によれば、売上高に対する広告宣伝費はピーク時で103%、直近でも92%に達する。販売パートナー経由の売上が全体の約6割を占め、その54%をジークスが担う。有価証券報告書による最新の通期売上高は60億5,728万円(2024年12月期)で37名(日本年金機構「適用事業所検索」に登録された被保険者数)。広告宣伝費→販売店売上→オルツ売上が一筆書きで循環するスキームが強固だったことが、財務数字の不均衡からも一定のレベルで裏付けられると言えそうだ。
ADKとは
1956年創業のADKホールディングス(旧アサツー ディ・ケイ)は国内3位級の広告代理店。2017年に米ベインキャピタル主導のMBOで非上場化し、データドリブン・統合マーケティングへ舵を切った。社内横断組織「AI CoE」で生成AIソリューションを推進してきたが、今回の循環取引疑惑でガバナンスの信頼性が再び問われる。
ジークスとは何者か 実態の見えにくい販売店
ジークスは1986年設立、資本金5,000万円のセールスプロモーション会社。公式サイトは広告・キャンペーン制作を主力とするが、プレスリリースは2022年以降更新がなく、事業実態を読み取る手掛かりは乏しい。CM制作会社がAI議事録ツールを大量販売する構図に業界関係者は首をかしげる。
もう一つ、オルツとADKの関係の深さを示すリリースが過去に開示されていた。
AI-CEO共同開発が映すオルツとADKの蜜月
2024年4月、両社は人格生成プラットフォーム「CLONEdev」を使い、ADKの大山俊哉CEOの分身「AI-CEO」を共同制作していたのだ。実際にADK入社式で新入社員125名にパーソナライズ・メッセージを送る施策を実施したようであり、同時期に広告費が売上へ化ける販売店フローにもADKの名が登場していたことを考えると、両社の関係性の深さを証だてるものと言えよう。

デロイト記事削除と第三者委員会――市場の視線は厳格
オルツ問題が明らかになったことで、協業を公表していたデロイトトーマツコンサルティングは関連対談記事を削除。オルツは第三者委員会を設置し、6月末までに調査報告書を公表するとしている。循環取引が立証されれば証券取引等監視委員会の強制調査や上場廃止リスクが現実味を帯びる。
ADK再上場に影落とす責任問題
MBO時に掲げた「数年での再上場」は東京五輪汚職で停滞している。今回の疑惑で資金循環の要と指摘されれば、再上場論議はさらに遠のく。市場関係者は「責任の波及は不可避」と口をそろえる。